古代インドの叙事詩ラーマーヤナ。インド側から見た勧善懲悪の英雄譚は、羅刹や夜叉が住むとされたスリランカからの視点では侵略ではなかったのか。鬼の目から見た英雄譚。
森の中で暮らすラーマ王子に恋をした鬼の姫、その彼女をいたずらに凌辱した王子への報復に、愛するシータ姫を拉致する羅刹の王ラーヴァナ。当然のように復讐に燃える王子の冒険と戦争の物語。
そしてタミルとシンハラ、長い内戦を終えたばかりの小さな島国でまた新たな火種がくすぶりはじめた背景にあるナショナリズム。はたしてこの土地は誰のものなのか。
最後に行われた戦争の勝者が報復が、因果に対する応報があるまでの間、大地の支配者となるのか。
あるいはのその業の輪が回り始まる前から、そこに定住を開始した民のものなのか。
仏教、ヒンドゥー、イスラム。
三つ巴の宗教と利権と業が渦を巻く中、ヴェッダと呼ばれる先住民の存在に注目しながら物語を追いました。日本では夜叉としてその存在を伝えられる狩猟の民。どこか憂いに満ちた瞳にかつての鬼の王ラーヴァナの面影をそこに見たような気がしました。
そして、これは大国とそのすぐ近くに存在する小さな島国の物語。
遠い日の、遠い国の、物語ではないのかもしれません。