スラウェシ島の高原、タナトラジャの民は旅をする。
かつて彼らは北の方角より船でこの地を訪れ、営みを始めた。
そこが旅の始まりであり、帰るべき場所、帰るべき方角。
そして、今。
それはやがてその身が朽ちる時までの旅路。あるいはほんのわずかなうたた寝の中で見た夢のようなものなのかもしれない。
明晰夢だったのか、彼等は葬儀の際に牛を殺す。
帰路の従者として、死者がより早く、正確に故郷である北の地に到達するために。
アルクと呼ばれるアニミズムの信仰がキリストの教えと溶け合う今も、彼等の帰還の旅は続いている。